トベラの実が割れて,艶のある赤い種子がむき出しになっていました。
いかにもおいしそうです。

トベラ
トベラ[ in岡崎法勝寺町 on2023/12/21 ]
トベラ(果実)
トベラ(果実)[ in岡崎法勝寺町 on2023/12/21 ]

赤い色に誘われた鳥が種をついばみますが,かたい皮に包まれた種は消化されずに糞と一緒に排泄されます。
さらにトベラの種子は粘液に包まれていて,べたべたと色んなところにくっつくので付着散布も同時におこなわれます。

トベラ(果実)
トベラ(果実)
トベラ(果実)
トベラ(果実)
トベラ(種子)
トベラ(種子)
トベラ(種子・断面)
トベラ(種子・断面)

『牧野新日本植物図鑑』(1961年)には,トベラについて次のように書いてありました。

とべら(とびらぎ,とびらのき) 〔とべら科〕
PittosporumTobiraAit。  
 本州(関東以西)四国,九州の海岸地方に自生,あるいはよく栽培されている常緑の低木で,特に根の皮に一種の臭気がある。 高さ2~3m。 葉は互生。 枝の上部に密生し,厚く表面はやや光沢があり乾燥すれば革質となる。 倒卵状長楕円形,先端は円形あるいは鈍形,基部はくさび形,長さ8~10cm,幅3cm内外,両面共に無毛で葉のふちはよく下面へ巻き込んでいる,花は6月に開き,白色
から黄色に変わり,芳香がある。 頂生の集散花序を作って群がり着く。 雌雄異株。がく片は5個で卵形,先端は鋭形,ふちには毛がある。 花弁はへら形で花爪があり,上部は平開あるいはそりかえっている。 雄しべは5本,雄花では長く雌花では小さくて熟さない。 子房は卵形で3心皮からなり,1花柱がある。 雄花では実らない。 果実は球形,真径は10~15mm。 熟すと三つに裂けて赤い粘った種子を出す。 〔日本名〕節分にこれを扉にはさみ,鬼をよけることがあるのでトビラノ木という。 〔名〕海桐花(不適当な名前で,多分同じ属の他種で支那に産するものであろう)。

トベラの名について「扉の木」が由来とし,「節分にこれを扉にはさみ,鬼をよけることがあるのでトビラノ木という」としています。節分の日にヒイラギを飾る風習は京都をはじめ各地にあるようですが,トベラを扉にはさむ風習はあまり聞きません。この風習が生まれるためには,地域にトベラが自生していなければならず,となると自生地が限られるため,この風習もかなり限られた地域のものだろうと思います。

『方言と土俗』(1930年)に,天草地方の風習について「とべらの木と節分」という一文が載っていました。

新井白石の「東雅」樹竹の部にとびらの木を
『石楠草トビラノキ  倭名鈔に,本草を引て,石楠草 トビラノキ,俗にサクナムサといふと見えたり。トビラの義不詳。サクナムサは其字の音を呼ぶ也。藻塩草には,石南草としるして,トベラノキと注せり。トビラといひトベラといふは,其語転ぜしなるべし。或人の説に,トビラノキといふは,俗相傳ふ。除日に民家の扉に,此木の枝をさせば,疫鬼を除ふといふ。さればトビラノ木といふ也。トビラノキといふは。古く聞えし名れば,古には夫等の俗もやありけむと。今の如きは除夜にヒヒラ木,又はシキミの葉などを,門に挿む事はあれど。此物を用ゆる事は聞えず。(下略)』
今この土俗を調査するに,現に,天草郡大浦村には節分の日,各戸トベラノキの枝を戸口に挿し,赤大根を噛み,医家よりは村の各戸に香蘇鉄を配る例である。とべらの木は暖国のものであれば,暖国にはこの俗多く行はれたるも,東国にては,即ヒヒラギを用いたるものであらう。

⇒ トベラの過去記事まとめ