クチナシの花はよく見ると奇妙な形をしています。
白い花びらの上に蛸が乗っているように見えませんか。[写真1]
蛸の足のように花冠裂片の間に,だらりと垂れ下がっているのは雄しべ。
花冠の中央に蛸の頭のように,大きくそそり立っているものは雌しべです。
通常,雄しべは細い糸(花糸)の先に楕円形をした葯がついていて,4分音符のような形をしていますが,クチナシの雄しべはどの部分が花糸でどこが葯なのかよくわかりません。
保育社『原色日本植物図鑑・木本編Ⅰ』(1985年)には,クチナシの花について次のように書いてありました。
花は6-7月,葉腋から1花をだす。強く香気がある。花柄は2-7mm。がくは子房をこえて筒状にのぴ,がく筒は長さ11-12mm,裂片は5-7,筒部へ稜となって沿下する。花冠は白色,高盆形,筒部は長さ2-2.5mm,外部に短毛を密布する。内部は長軟毛が密生する。裂片は5-7,倒卵形,開出し,開出面は径5-8cm,蕾のときは覆瓦状にならぴ,全体がねじれる。雄ずいは5-7,花糸は筒部の全長に合生し,葯は長さ14mm,花柱は棍棒状長さ3.5-4.2cm。
「花糸は筒部の全長に合生し,葯は長さ14mm」とあります。
花糸の部分は長い筒部に隠れていて,見えているのは葯の部分だけのようです。
花冠裂片の間に垂れ下がっているのは,細長い葯なのですね。
[写真3]は花の断面。
それにしても,垂れ下ったこの葯は,訪れてくる虫たちに片っ端から花粉をつけてやるぞという気概に欠けています。
[写真2]は花を訪れたホソヒラタアブです。
葯は虫に全然触れていません。
これでは,花粉をこすり付けることはできません。
ホソヒラタアブは花柱についている花粉を食べているようです。
この花粉はどこから来たのでしょうか。
[写真5]は,開花直後の花柱です。
すでに花柱には花粉がたっぷりとついています。
花柱についているのは自身の花粉です。
蕾の段階で雄しべは成熟し,葯を花柱に押し付けて花粉を転写しているようです。
雄しべは花が開いた段階ですでに役目を終えていたのですね。
受精の仕組みはどうなっているのでしょうか。
このまま自家受精をするのであれば,スミレの閉鎖花のように蕾のままで花を咲かせなくてもよいでしょうし,ましてや強い香りで虫たちを誘引する必要もないでしょう。
似たような例としてはキキョウがあります。
キキョウの花も,花柱が伸長する際に周囲の葯から花粉を掃き集めるため,開花したときには花柱は自身の花粉で覆われています。
しかし雌しべはまだ成熟していないので受精は行われません。
開花から数日して雌しべは成熟し,花柱の先端が五つに裂けて柱頭が現れます。
花を訪れた虫が運んできた他の花の花粉が柱頭について受精が行われますが,この頃には自花の花粉は寿命で受精する能力は失われています。
こうした仕組みを「雄しべ先熟」といい,自家受精を防ぐためのシステムだと言われています。
クチナシも開花後しばらくすると花柱の先端が裂けて柱頭へと変化するのでしょうか。
[写真6]は開花後かなり経って,花びらも黄色く変化した状態での花柱です。
花粉は雨に洗われてしまっていますが,花柱には変化はないようです。
クチナシも「雄しべ先熟」で,花柱に自分の花粉をまとい,匂いで誘引した虫たちに花粉を運んでもらっているのでしょうが,どこで受粉するかなど受精の仕組みについては,いろいろ調べたのですがよくわかりませんでした。。