夏のはじめに羽化したトンボがそろそろ寿命を迎える時期なのか,今朝はトンボの死骸を3頭拾いました。[写真1][写真2]
3頭ともほぼ同じ大きさで,黒地に鮮やかな黄色の条紋があります。
どれもオナガサナエだろうと思っていましたが,よく見ると1頭だけ胸の模様が違います。

図鑑で調べてみると,これはオオサカサナエでした。
[写真1]の上がオナガサナエの♂,まん中がオオサカサナエの♀,下がオナガサナエの♀です。

オオサカサナエはサナエトンボ科メガネサナエ属に属するトンボで,初めて発見された場所が大阪だったことから「オオサカ」の名がつけられています。
発見されてからしばらくの間は,珍品中の珍品だったようです。
京都新聞社『京都の昆虫』(1991年)には,次のように書いてありました。

1957(昭32)年ごろ,宇治川の周辺はまさにトンボの宝庫でした。

6~8月にはメガネサナエ(サナエトンボ科)とともにオオサカサナエが羽化し,毎年350個ぐらいの羽化殻が得られました。これらの中でオオサカサナエは1916(大5)年に大阪市内で1雄が採取されて以来,この時までに計4雄1雌が知られているだけという超珍品だけに,それが宇治で多数の成虫とともに,幼虫や羽化殻も発見されたとのニュースは,全国的な注目を集めました。

現在の分布状況について,北海道大学図書刊行会『原色日本トンボ幼虫・成虫大図鑑 』(1999年)には,次のように書いてありました。

日本の一部と朝鮮半島・中国東北部・ウスリーなどに分布する。日本では琵琶湖と琵琶湖水系河川の滋賀・京都・大阪の2府1県から記録されていたが,1974年に三重県の櫛田川水系でみつかり,1987年には雲出川水系で成・幼虫が採集された。このほか岐阜県の関ケ原町でも成虫が記録されている。いずれの産地も生息域が著しく局所的で個体数も少ない。

現在でもかなり分布は限られているようです。
琵琶湖疏水も琵琶湖水系河川といえばいえるので,付近で繁殖しているのかもしれません。

同書には,オオサカサナエの成虫形態について次のように書いてありました。

 腹長♂42~44mm, ♀42~45mm。後翅長♂33~35mm, ♀34~37mm。
 日本産メガネサナエ属中で最も小さい。同属他種と酷似する。前肢腿節の下面に黄色斑があることと,腹部第9節の黄色斑が大きく鮮明なことなどで識別できる。
 体色は黒地に黄色い条斑がある。 ♂♀でほとんど差がなく,成熟してもあまりかわらない。頭部は顔面が黒く,前額と上唇および大顎の基部が黄色。 ♀は後頭の後縁がほぼ水平で単眼の後ろ側に先端がふれあった1対の鋭い針状突起がある。複眼は未熟なうちは黄褐色をしているが,成熟すると緑色に輝く。複眼は未熟なうちは黄褐色をしているが,成熟すると緑色に輝く。胸部は翅胸前面の黄色条が八の字形で全体がほぼ同幅。前肩条は上端の中点と連なり,はっきりしている。襟条は左右が中央でわずかに離れる。胸側は黄色で第1 ・第2側縫線の黒色条は太くて上縁まで達しているが, ♀では第1側縫線の黒色条が途中で切れている個体もある。はおおむね無色透明だが,♂♀とも基部がごく薄く黄色みをおびる。黄色部は同属中で最も広く,ほぼ結節近くにまで達し,特に未熟個体で鮮明。翅脈は黒いが,緑紋は濃褐色。肢は基節・転節が黄色で腿節から先が黒く,前肢腿節の下面に黄色斑がある。腹部は黒く,第1~8節の背面の基端に小黄色斑がある。第1節と第2節のものは連なっている。第4~6節のものは側面へのびて細い環状斑となる。第7節背面の黄色斑はメガネサナエのように後ろへ流れない。第8節背面の黄色斑はいびつな五角形または楕円形。また第7節と第8節の両側にもそれぞれ黄色斑があるが,第8節のものは大きい。第9節は側面に♂では小黄色斑,♀ではやや大きい黄色斑がある。一般に♀は黄色斑が♂より大きく鮮明で,腹部第7~10節の下面があざやかな黄白色を呈する。

・この個体は腹長45mm,後翅長35mmでした。[写真3]
・[写真9]のとおり前肢腿節の下面に黄色斑があります。(中肢,後肢に黄色斑はありません。)腹部第9節の黄色斑は[写真10]のとおり。
・針状突起は小さいうえに,黒地に黒い突起なのでとても見分けにくいものでした。[写真7]
・この個体の複眼は緑色をしているので,成熟個体です。
・胸部の条斑は[写真6][写真7]
・翅基部の黄色部はあまりはっきりしません。[写真8]
・前肢腿節下面の黄色斑は[写真9]
・腹部の斑紋は[写真10]