南禅寺にあるバショウに花が咲いていました。
大きなラグビーボールのような塊の一部がめくれて,列になった白い花が顔を出しています。[写真1]
上の方にはバナナのような実もなっています。[写真4]
今まで気づきませんでしたが,バショウの花序は随分珍妙な形をしていますね。

調べてみると,バショウには雄花と雌花があり,今咲いている花が雄花です。
雌花は既に咲き終わり,子房がふくらんでバナナのような形になっています。
バショウは雌性先熟で,自家受粉を避けています。
そのため雌花が開花している時に,近くに別のバショウの雄花が開花していないと,受粉することができません。

『牧野新日本植物図鑑』(1961年)には,バショウについて次のように書いてありました。

根茎の頂上から直立する幹は偽幹で,緊密に重り合う長い葉鞘ででき上っており,高さ5m内外,径20cm内外若葉は巻いて出て直立しているが,開くと四方にひろがり,葉面は大型で広い長楕円形,長いものは2mぐらい,鮮緑色で中脈は淡緑色で裏面に高く太く隆起し,その左右には多数の支脈が平行し破れ易い。夏に偽茎の中央を突きぬけて粗雑で太い緑色円柱形の花茎が立ち,一方に傾いて,多数の花の穂がでる。黄褐色大形の包葉で包まれ各包葉の内側には15内外の花が2列に列生し,開花すると直ぐに包葉は落ちる。下方のは雌花,上方のは雄花,花は長さ6-7cm,下位子房は緑色,花被は黄白色で脣状を呈し,上脣は外花被3片,内花蓋2片が合し,上部だけが五つにわれる。下脣は独立する内花被の一片で,ほぼ卵形で尖り袋の中に多量の蜜がある。雄しべは5大形,雄花では長いやくがあり花蓋より長い。まれに果実がなるが種子は黒い。

・根茎の頂上から直立する幹は偽幹で,緊密に重り合う長い葉鞘ででき上って
バショウは地下に茎を伸ばして増え,地上部には茎がありません。
木本の幹のようにも見えるものは,葉鞘(葉の根元部分)が幾重にも重なり合ったものです。
葉鞘の表面は縦に裂けて薄く剥がれぼろぼろで,あまり綺麗とは言い難いですね。[写真6]
沖縄ではイトバショウの葉鞘の繊維で芭蕉布(ばしょうふ)を織るそうです。
本州のバショウでも芭蕉布が織れるのかどうかについては,記述が見当たりませんでした。
もっとも,1反の芭蕉布を織るのには200本のイトバショウが必要と言われているので,大規模に栽培しないと無理かもしれません。

・若葉は巻いて出て直立しているが,開くと四方にひろがり,葉面は大型で広い長楕円形
[写真7]

・夏に偽茎の中央を突きぬけて粗雑で太い緑色円柱形の花茎が立ち,一方に傾いて,多数の花の穂がでる
幹のように見えるもの(偽茎)はあくまでも丸まった葉っぱなので,花茎は地下茎から生えてきます。
地面から花茎が伸びて,先端に花をつけるのは,チューリップのイメージでしょうか。
偽茎を剥がすと,中に地面から生えた円柱形の花茎が直立しているはずです。

・黄褐色大形の包葉で包まれ各包葉の内側には15内外の花が2列に列生し,開花すると直ぐに包葉は落ちる
花軸には,苞葉が落ちた痕が螺旋状になってくっきりと残っています。[写真8]
ナウマンゾウの歯の化石のように並んだ白い痕は,雄花が脱落した痕です。
2列に並んで15内外ありました。
痕は果実がなっているところまでずっと続いていて,元々の雄花序はかなり長大なものだったことがわかります。

・下方のは雌花,上方のは雄花
花序の基部は果実のなっている部分までは水平にのび,その先は雄花の房の重さのためか,だらりと垂れ下がっています。[写真3]
丁度,棒の先に提灯をぶら下げている形です。
「下方のは雌花,上方のは雄花」は見た目には逆で,下方に雄花,上方に雌花があります。

・花被は黄白色で脣状を呈し,上脣は外花被3片,内花蓋2片が合し,上部だけが五つにわれる。下脣は独立する内花被の一片で,ほぼ卵形で尖り袋の中に多量の蜜がある。
花の下の地面には,剥落した苞や雄花がたくさん散らばっていました。[写真9]
落ちていた雄花は,上下を唇状の花被が覆った,細長い花です。[写真10]
萼片と花弁が同じような色や形の場合,萼片を外花被(がいかひ),花弁を内花被(ないかひ)といいます。
上唇は「外花被3片,内花蓋2片が合し」,下唇は「独立する内花被の一片」。
「花蓋」は「花被」と同義なので,花被片は6枚あり,外花被3片と内花被2片が合して上唇となり,内花被の一片が離れて下唇となっていることになります。

開花している雄花の写真を見ると,アリがたくさんいます。[写真11]
下唇には「袋の中に多量の蜜がある」ので集まってくるようです。
落ちている雄花にもアリがたかっていました。
落花しても,すこし蜜が残っているようです。
花を分解すると指がベタベタしました。

・雄しべは5大形,雄花では長いやくがあり花蓋より長い
落ちていた雄花には,5本の雄しべと,1本の雌しべがありました。
雄しべは上唇より長く,葯にはたくさんの花粉が付着しています。[写真12]
雌しべは形態的には退化しているようには見えませんが,雌性生殖機能は退化しているようです。
子房は全然ふくらんでいません。

・まれに果実がなるが種子は黒い
バショウとバナナは同じバショウ科バショウ属なので,大きな葉っぱの形も,花のつき方も,果実の形もよく似ています。
しかし,バショウの実は食べてもおいしくないらしいです。