歩道にカエルが座っていました。[写真1][写真2]
緑色をした中型のカエルです。
近づいても動きません。
じっと前を見ています。
よく見ると,転げまわったように,体中に小さなごみがたくさんくっついています。
何があって,ここにいるのでしょうか。

本州で緑色のカエルは3種類います。
ニホンアマガエル,モリアオガエル,シュレーゲルアオガエル。
『山渓ハンディ図鑑9 日本のカエル』(2015年)によると,この3種類の見分け方は,
・ニホンアマガエル

鼻先から鼓膜にかけて黒い線が入る。鼻先がすとんと切れ落ちたようになっている。

・モリアオガエル

鼻から目にかけて黒い線が入らない。鼻先が尖っている。白目の部分が赤みががかる。

・シュレーゲルアオガエル

鼻から目にかけて黒い線が入らない。鼻先が尖っている。白目の部分に赤みがない。

この見分け方からすると,「鼻先から鼓膜にかけて黒い線」はないのでニホンアマガエルは除外されます。
次に,白目の部分の色ですが,このカエルの眼は一見すると金色に見えます。
「白目の部分が赤みががかる」かどうか判然としません。
色々な写真を見比べてみると,[写真8]は「白目の部分が赤みががかる」というもののようで,このカエルはモリアオガエルということになります。

眼の色以外に,モリアオガエルとシュレーゲルアオガエルの見分け方はないのか,文一総合出版『日本カエル図鑑』(1999年)に詳しい解説が載っていたので,両種の特徴を表にまとめてみました。

  モリアオガエル シュレーゲルアオガエル
体形 体は比較的大きく,後方にむかってしだいに細くなる。 体は比較的小さく,後方にむかって細くなる。
頭幅 頭幅は体長の34%ほどで頭長よりも大きい。 頭幅は体長の34%ほどで頭長よりも大きい。
頭部 頭部は背面観では♂で弱く尖り,♀ではややにぶく,側面観ではゆるく傾斜する。 頭部は背面観では♂で弱く尖り,♀ではややにぶく,側面観ではゆるく傾斜する。
眼鼻線 眼鼻線は鋭く明瞭なことが多い。 眼鼻線は明瞭。
頬部 頬部は強く傾斜し,少し凹む。 頬部はやや強く傾向し,少し凹む。
吻長 吻長は上眼瞼長と等しいか,それより大きく,眼前角間より小さい。 吻長は上眼瞼長よりも大きく,眼前角間とほぼ同長。
外鼻孔 外鼻孔は吻端と眼の前端とのほぼ中央ないし,吻端寄りにある。 外鼻孔は,吻端と眼の前端とのほぼ中央にある。
上眼瞼の間 左右の上眼瞼の間は平坦で,その間隔は上眼瞼の幅よりはるかに大きい。 左右の上眼瞼の間は平坦で,その間隔は上眼瞼の幅よりはるかに大きい。
外鼻孔の間隔 左右の外鼻孔の間隔は,眼からの距離より大きく,上眼瞼間の幅より小さい。 左右の外鼻孔の間隔は,眼からの距離より大きく,上眼瞼間の幅より小さい。
鼓膜 鼓膜はほぼ円形ないし垂直方向の短楕円形で,直径は眼径の半分ないしそれよりやや大きい。 鼓膜はほぼ円形で,直径は眼径の半分よりやや小さい。
鋤骨歯板 鋤骨歯板はかなり長い楕円形で弱く斜向し,その中心は左右の内鼻孔の後端を結んだ線よりずっと前方にある。 鋤骨歯板は長楕円形で弱く斜向し,その中心は左右の内鼻孔の後端を結んだ線上,またはやや前方にある。
各歯板には5-12個の歯をそなえている。 各歯板には7-8個の歯をそなえる。
手腕長 手腕長は♂で体長の51%,♀で55%ほど。 手腕長は♂で体長の48%,♀で49%ほど。
脛長 脛長は雌雄とも体長の43%程度。 脛長は♂で体長の37%,♀で40%程度。
前肢(指端) 前肢指端は膨大し,吸盤となっている。 前肢指端は膨大し,吸盤となっている。
前肢(吸盤) 吸盤は周縁溝をもち,第3指のものが最大で,鼓膜の直径と同大かそれより大きいが,第1指の吸盤は小さい。 吸盤は周縁溝をもち,第3指と第4指のものがほぼ同幅で,鼓膜の直径よりわずかに小さい程度だが,第1指の吸盤は小さい。
前肢(指長) 第3指が最長で第1指が最短,第4指は第2指より長い。 第3指が最長で第1指が最短,第4指は第2指より長い。
前肢(みずかき) 各指間にみずかきが比較的よく発達する。
みずかきは第1指外縁で関節下隆起に,第2指の外縁と第4指内縁では末端関節に達する。

第3指では内縁で近位関節下隆起と遠位関節下隆起の間に,外縁で遠位関節下隆起に達する。
各指間にみずかきをもつが,切れこみは比較的深い。

みずかきは第1指と第2指の間では基部のみにあり,第2指の外縁で関節下隆起に,第4指内縁でも遠位関節下隆起に達する程度。
第3指では内縁で近位関節下隆起に,外縁で遠位関節下隆起に達する。
前肢(内掌隆起) 内掌隆起は長い楕円形で偏平に近い。 内掌隆起は楕円形で扁平に近い。
前肢(中手部) 中手部に過剰隆起をもつ。 中手部に過剰隆起をもつ。
後肢(趾端) 後肢趾端も膨大し,前肢のものより小さい吸盤となっている。 後肢趾端も膨大し,前肢のものより小さい吸盤となっている。
後肢(吸盤) 吸盤は第4趾のものが最大で,第5趾のものがやや小さく,第1,2趾のものはかなり小さい。 吸盤は第4趾のものが最大で,第5趾のものがやや小さく,第1,2趾のものはかなり小さい。
後肢(みずかき) 趾間のみずかきは比較的発達し,切れこみはふつう。

みずかきの幅広い部分は,第1趾から第3趾の外縁と,第5趾の内縁では,通常吸盤基部に達し,第4趾では内外線とも,遠位関節下隆起ないし末端関節に達する。
趾間のみずかきはそれほど発達せず,切れこみは比較的深い。

みずかきの幅広い部分は,第1趾から第3趾の外縁と第5趾の内縁では,通常末端関節に達し,第4趾では内外線とも遠位関節下隆起に達するのがふつう。
後肢(内蹠隆起・外蹠隆起) 内蹠隆起は卵形でよく隆起するが,外蹠隆起は不明瞭で認められないことが多い。 内蹠隆起は卵形でやや隆起し,外蹠隆起はそれほど隆起しないが円形でかなり大きい。
脛?関節の位置 後肢を体軸に沿って前方にのばしたとき,脛?関節は雌雄とも鼓膜の中心ないし,眼の中心の水準に達する。

後肢を体軸と直角にのばして膝関節を折りまげると,左右の脛?関節は多少とも離れる。
後肢を体軸に沿って前方にのばしたとき,脛?関節は鼓膜の中心ないし眼の後縁に達する。

後肢を体軸と直角にのばして膝関節を折りまげると,左右の脛?関節は大きく離れる。
体表 背表の皮膚は鮫肌状で細かい顆粒におおわれ,ことに上眼瞼の後半部,肘の周囲,後肢背面では顆粒が顕著。顆粒の頂点は白く,やや尖る。

のどから胸にかけての皮膚は弱く小さい顆粒に,それより後ろの腹面はより大きく粗雑な,多角形の顆粒におおわれる。
背表の皮膚はほぼ平滑。

のどから胸にかけての皮膚は微細な,それより後ろの腹面はより大きく粗雑な,多角形の顆粒におおわれる。
鼓膜背側隆条 背側線隆条は無いが,鼓膜背側隆条は太く明瞭。 上唇縁後部と前肢基部の間に隆条をもたず,背側線隆条もないが,鼓膜背側隆条は太く明瞭。
皮膚ひだ 前肢外縁には,第4指吸盤の基部から肘の内側まで続く弱い皮膚ひだがあり,後肢外縁にも第5趾吸盤の基部から脛?関節まで続き,後者の内側で終わる弱い皮膚ひだがある。 前肢外縁には,第4指吸盤の基部から肘の内側まで続くごく弱い皮膚ひだがあり,後肢外縁にも第5趾吸盤の基部から脛?関節まで続き,後者の内側で終わるごく弱い皮膚ひだがある。
成体の体長 成体の体長は♂で42-60(平均57)mm,♀で59-82(平均72)mmで,♀は♂よりも著しく大きい。 成体の体長は♂が32-43(平均35)mm,♀が43-53(平均46)mmで,♀は♂よりも著しく大きい。
鳴嚢 ♂は咽頭下に単一の鳴嚢をもつ。鳴嚢孔は1対の長いスリット状で,顎関節内側から下顎中央にかけて斜向する。 ♂は咽頭下に単一の鳴嚢をもつ。鳴嚢孔は1対の長いスリット状で,顎関節内側から下顎中央にかけて斜向する。
婚姻瘤 ♂の婚姻瘤は灰黄色の顆粒からなり,前肢第1指の背側で基部から,吸盤基部にかけて発達し,第2指背側の一部にも発達する。 ♂の婚姻瘤は黄白色の顆粒からなり,前肢第1指の背側で基部から吸盤基部にかけて発達し,第2指背側の一部にも発達する。
  他のアオガエル類同様,第1指内側の中手部はやや扁平だが,その程度は♀で強い。 ♂ののどは黒色素におおわれる。

こうして見比べてみると,形態的特徴はほとんど一緒です。
目立つ違いは,モリアオガエルの方がみずかきが発達していることと,体のサイズが大きいことくらいです。
体のサイズは,本個体のように50mm前後のものはどちらにも当てはまります。

もともと,モリアオガエルはシュレーゲルアオガエルの変種として扱われていたようです。
前書には次のように書いてありました。

当初,シュレーゲルアオガエルの2変種,モリアオガエルvar.arborea (基準産地は京都府衣笠国有林) ,キクアオガエルvar.intermedia (同佐渡河原田)として記載されたが,東京大学にあった基準標本は戦災で消失した。両者とも後に亜種に昇格し,さらにキタアオガエルはモリアオガエルに含められた。しかし,シュレーゲルアオガエルと同所的に生息しており,また交配実験では受精が起こらないか,胚が発生初期に死亡するので,本種は独立種とみなせる。東北日本産の個体群は体が小さく,暗色斑紋を欠くなどの特徴があるが,十分に調査されていない。

形態的特徴はよく似ていますが,鳴き声は全く違います。
・モリアオガエル

カララ・カララ……と聞こえ,コロコロという後鳴きが続く。

・シュレーゲルアオガエル

リリリリ……と聞こえる。

産卵場所も異なります。
・モリアオガエル

♀は水上に突き出た高さ5mほどまでの樹の枝や葉,草の上,地上に,2時間ほどかけてクリーム色で泡状の卵塊を産む。

・シュレーゲルアオガエル

♀は穴や土の窪みに入ってそこにクリーム色で泡状の卵塊を産む。