サクラの花びらが埋め尽くした水路に,タネツケバナとオオバタネツケバナが並んで花を咲かせていました。よく似ている両者ですが,こうやって並んでいると違いがよく分かります。名前に「大葉」とついているだけに,オオバタネツケバナの葉はタネツケバナの3倍くらい大きいですね。
両者を比較してみました。
・花,総状花序の大きさ,形はよく似ています。花だけで見分けるのは困難だと思います。
・果実(まだ未熟ですが)も形,大きさがよく似ています。
・葉はどちらも羽状に分裂していますが,オオバタネツケバナは「小葉の数が少なく2~5対で,葉面が円形,頂小葉が最大で特に大きく,幅2.5cmにも」なります。タネツケバナは「頂小葉が大きく,下部の小葉は小さくなる。小葉は円形,卵形,長楕円形等で一定しない。」
・茎は,オオバタネツケバナが緑色で無毛なのに対して,タネツケバナは基部が暗紫色で短毛があります。
『牧野新日本植物図鑑』(1961年)には,オオバタネツケバナについて次のように書いてありました。
843.おおばたねつけばな 〔あぶらな科〕
Cardamine scutata Thunb. (=C. Regeliana Miq. )
山地あるいは原野の水湿地に,ふつうにはえる多年生草本で,高さ10~20cmぐらい。茎は緑色でやわらかく,基部は地面をはい,やや束生するように見える。全株ほとんど無毛。葉は互生し羽状に分裂して,大体の形はタネツケバナに似ているが,小葉の数が少く2~5対で,葉面が円形,頂小葉が最大で特に大きく,幅2.5cmにもなる点で異なる。夏に枝先きに短かい総状花序をつけて,有柄で白色のごく小さい十字状花をひらく。はじめは花序の軸が短かいが,果実が熟する頃にはかなりの長さになり,長角果をまばらにつけるようになる。がく片は長楕円形,長さ2mmぐらい。花弁は広いへら形,長さ3.5mmぐらい。雄しべのうち4本が長く,雌しべは1。細長い長角果は,長さ2~3cmで斜上する。種子のある所はわずかにふくらむ。熟すると果皮が2片に裂けてそりかえり,細かい種子を放出する。四国の松山ではこれをテイレギ(??の音よみ,この漢名のものはイヌガラシ)と呼んで食用にする。少し辛味がある。〔日本名〕大葉種漬花の意味。
タネツケバナについては,次のように書いてありました。
841.たねつけばな(たがらし) 〔あぶらな科〕
Cardamine flexuosa Withering(=C. hirsuta L. var. sylvatica Gaud.)
至る所の田圃,浜の畔,水辺の湿地等にはえる越年生草本。茎は直立して高さ20~30cmぐらい。基部および下部から分枝し,暗紫色あるいは緑色で弱々しい。下方には普通,開出する短毛がある。葉は互生し,頭大羽状に分裂し,頂小葉が大きく,下部の小葉は小さくなる。小葉は円形,卵形,長楕円形等で一定しない。全縁,時には波状縁,あるいは浅い切れ込みがある。茎下部の葉は長さ7cmにもなる。 4~5月頃枝先に頂生する総状花序をつけ,白色で有柄の小形十字状花を10~20個ひらく。がく片は暗紫色をおび卵状長楕円形,長さ2mmぐらい。花弁は倒卵形,基部はせまくなり,長さ3~4mmで,がく片の約2倍。雄しべのうち4本が長く,雌しべは1,長角果は無毛,長さ2cm,幅1mmの線形。種子のあるところは,ややふくらむ。熟すると開裂し,2果皮片がそりかえり,細かい径1mmほどの種子をとばす。水辺にはえて,葉の小葉(裂片)がやや長大で緑色,やわらかくて毛のないものをミズタネツケバナ(var.latifolia Makino)といい,乾燥地にはえ,毛が深く,やせて直立する茎をもち,葉も小形なるものをタチタネツケバナ(var. fallax O.E.Schulz)という。〔日本名〕種漬花。苗代を作る直前に,米の種籾を水に漬す時期に盛んに花が咲くのでこの名がついた。田芥は田間にはえるカラシの意味である。 〔漢名〕?菜。一般に砕米薺があてられているが,これは誤りであろう。
オオバタネツケバナが多年草なのに対して,タネツケバナは越年草となっています。そのせいでしょうか,オオバタネツケバナは寄り集まってこんもりと束生し,タネツケバナは単独でポツンポツンと生えているように見えます。