水路の縁にはえたイヌタデに花が咲いていました。水面に茎を斜上させ,水生植物のように見えます。たくさんに分岐し,節から水中の泥に根を出していました。
『牧野新日本植物図鑑』(1961年)にはイヌタデについて次のように書いてありました。
原野や路ばたに多い1年生草本で,高さ20~40cmぐらいである。茎は直立し,あるいは斜に傾むいてのび,しばしば分枝してくさむら状になり,軟らかくて平滑な円柱形で,通常紅紫色をおびる。葉は互生し,広皮針形あるいは皮針形で,両端が尖り,葉のふちや裏面の脈上に毛がある。さや状の托葉はふちに長い毛が並んではえている。夏から秋にかけて,稍上に,長さ1~5cmぐらいの密な穂状様の花穂を出し,小形の花をつける。花は紅紫色で,まれに白色のものもある。がく片は5個に深裂し,長さ1.5mmぐらい,裂片は倒卵形である。花弁はない。おしべは普通8個花柱は3個。そう果は3稜形で暗褐色,つやがあり,長さ約1.5mmで宿存がくに包まれている。白花品をシロバナイヌタデ(f. albiflorum Makino)という。〔日本名〕犬蓼。イヌタデは元来は辛味がなくて食用にならないタデの総称であるので,著者(牧野)は本種に一度ハナタデの名を与えた。しかしこの名は別項のヤブタデの通称と同じで混乱のおそれがあるので,本版では再びもとにもどした。一名アカノマンマは粒状の紅花を赤飯にたとえた名である。〔漢名〕馬蓼は別のものである。
・「茎は直立し,あるいは斜に傾むいてのび,しばしば分枝してくさむら状になり,軟らかくて平滑な円柱形で,通常紅紫色をおびる。」
・「葉は互生し,広皮針形あるいは皮針形で,両端が尖り,葉のふちや裏面の脈上に毛がある。」
・「さや状の托葉はふちに長い毛が並んではえている。」
・「夏から秋にかけて,稍上に,長さ1~5cmぐらいの密な穂状様の花穂を出し,小形の花をつける。」
・「花は紅紫色で,まれに白色のものもある。がく片は5個に深裂し,長さ1.5mmぐらい,裂片は倒卵形である。花弁はない。おしべは普通8個花柱は3個。」
・「そう果は3稜形で暗褐色,つやがあり,長さ約1.5mmで宿存がくに包まれている。」
花穂の中の蕾のように見えるものを指で潰してみると,中に黒い痩果が入っていました。数えてみると,一つの花穂に33個の花があり,そのうち19個が結実していました。ひょっとしたら開花せずに自家受粉しているのかもしれませんね。
・「イヌタデは元来は辛味がなくて食用にならないタデの総称であるので,著者(牧野)は本種に一度ハナタデの名を与えた。しかしこの名は別項のヤブタデの通称と同じで混乱のおそれがあるので,本版では再びもとにもどした。」
ヤブタデ(ハナタデ)の項にも「通称のハナタデ(花蓼)は梅花状に開く花のようすにもとずいたものであるが,これは誤称である。」としています。
牧野富太郎は,ハナタデ(花蓼)の名はイヌタデにこそふさわしいと考えていたようです。私も,花の美しいイヌタデにではなく,花がまばらににしか咲かないハナタデになぜ花蓼の名をつけたのか不思議に思っていました。一度名前が定着すると,たとえ牧野富太郎であっても修正は難しいようです。