石垣の隙間から伸びたホトケノザに,花が咲いていました。
オドリコソウと同じ仲間で,唇形の花がよく似ています。特にヒメオドリコソウとは同じ紫色の小さな花でよく似ています。同じような姿形ですが,かたや踊子に例えられ,かたや仏様に例えられるとは。
たまたま石垣の隙間に種が飛んできたのだろうと思っていましたが,そうではないようです。ヒメオドリコソウの種子はエライオソームが付着する典型的なアリ散布植物だそうです。アリが石垣の隙間にある巣まで種子を運んでいたのです。
アリはホトケノザの種子を巣まで運び,栄養分に富むエライオソームを幼虫に与えます。幼虫がエライオソームを食べた後,アリは種子をアリのフンや死骸の栄養分が豊富な廃棄物処理場に運び,そこで発芽します。(エライオソーム(Elaiosomes)とは古代ギリシア語で 「”oil” + “body”」の意味だとか。)
そう思って石垣を見ると,細い隙間にいくつもホトケノザが生えています。風に飛ばされた種がたまたま引っかかったとは思えないですね。
ホトケノザは,普通に咲いて他家受粉をおこなう解放花と,咲かずに自家受粉を行う閉鎖花を同時につけます。開放花の種子は閉鎖花の種子より大きく,エライオソームの量も多いそうです。これはアリが好むエライオソームの量を加減することにより,自殖種子は親元近くへ,他殖種子は親元から離れた環境へ散布されるようにコントロールしていると考えられています。(→開放花・閉鎖花を同時につけるホトケノザ種子の表面成分とアリによる種子散布行動)
『日本の野生植物』(2016年)には,ホトケノザについて次のように書いてありました。
ホトケノザ
Lamium amplexicaule L.
畑や道ばたにふつうに見られる越年草。茎は直立または斜上して基部で分枝し,高さ10-30cm,葉は下部のものは長い柄があり,茎の中部以上のものは無柄で扇状円形,円い鋸歯があり,長さ幅ともに1-2.5cm。萼は長さ約5mm,毛が多い。 花期は3-6月だが,他の時期にも閉鎖花を多くつける。花冠は細長い筒があり,長さ14-20mm,紅紫色で,上唇は特に色が濃い。分果は約2mm,3稜形で背面は円く,全体に白斑がある。
〈春の七草〉の〈ホトケノザ〉はキク科のコオニタビラコであって、本種とは別のものである。
・葉は茎の中部以上のものは無柄で扇状円形,円い鋸歯があり,長さ幅ともに1-2.5cm
・萼は長さ約5mm,毛が多い。
・花冠は細長い筒があり,長さ14-20mm,紅紫色で,上唇は特に色が濃い。
雄蕊は4個で下の対が長く,柱頭は2裂しています。