歩道の柵に,クビキリギスがとまっていました。
3日前の3月5日は,冬ごもりしていた虫が動き出すという「啓蟄(けいちつ)」。
しとしととした雨がよく降り,日に日に暖かくなってゆきます。
虫たちも,そろそろ動き出したようです。

啓蟄は,1年を24等分して季節を表す名をつけた「二十四節気(にじゅうしせっき)」のひとつです。
啓蟄の「啓」は「ひらく」意,「蟄」は「かくれる」意です。
『角川 大字源』(1993年)によると,「蟄」は

音符の虫(むし)と,意符と音符を兼ねる執(シツ)→チツ(かくれこもる意)とから成る。虫が土の中に冬ごもりする,「かくれる」意。

二十四節気は旧暦で使用されていたものなので,今の暦とずれてると思っている人も多いですが,そんなことはありません。
もともと二十四節気は,純粋な太陰暦が季節とずれてしまうことを修正するために,太陽の運行をもとに作成されたものなので,現在の暦でも十分にあてはまります。
(月の満ち欠けだけによる純粋な太陰暦では,1年は約354日なので,暦と季節は連動しておらず,約8年で一季節分早くなります。)

二十四節気の基準となるのは,冬至,春分,夏至,秋分(二至二分)です。
これはまさしく太陽暦と同じ考え方です。
二至二分それぞれの中間点が,立春,立夏,立秋,立冬(四立)です。
立春は「暦の上ではもう春ですが」などと表現され,いかにも新暦では季節がずれているかのごとく言われますが,立春は新暦でも旧暦でも同じように寒い時期になります。

二十四節気は,黄道(天球上における太陽の見かけの通り道)を15度ごとに24等分して決められています。
例えば,啓蟄は太陽が黄経345度に位置した時(日)をいいます。

365日÷24≒15日で,一つの節気は約15日になります。
3月5日の啓蟄から15日経った,3月20日は春分です。

(今気付いたのですが,1節季は角度でいうと15度,日数でいうと15日。15という同じ値をとりますね。これは偶然なのでしょうか,それとも当然なのでしょうか。24で割る前の元の数値,太陽が天球を一周する日数365日と,円の角度360度はよく似た数値なのですが,何か関連があるのでしょうか。
調べてみると,これは偶然ではなくて,角度という概念が生まれた経緯とかかわりがあるようです。色々な説があるようですが,一説によると,古代の天文学者は,天空の星を観測するうちに,天の極の周りを星が360日かけて1周することに気付き,ここから円周を360等分する考え方が生まれたというのです。)

もっとも,二十四節季は中国の気候を元に名づけられているため,日本の気候と合わないものもありますし,日本のどこを基準に考えるのかという問題もあります。

平凡社『世界大百科事典』(2006年)には,「二十四節季」の項目に次のように書いてありました。

二十四節気は現在季節のくぎりめとして受け取られているが,その名称は今から二千何百年も昔の華北の気候に基づいて名付けられたものであるから,日本の気候と合わないものがあっても不思議ではない。例えば小雪(11月23日ころ),大雪(12月8日ころ)などはまったく不適当で日本では1月下旬から2月にかけてもっともよく雪は降る。また華北では2月の平均気温は12月より高く,当然1月よりもずっと高い。東京や京都では2月は12月より寒く,1月とあまり変わらないから立春の名も華北ほど適切とは思われない。

日本気象協会では,現代の日本に合った新しい二十四節気を作ろうとしています。
日本気象協会のホームページに次のように書いてありました。

従来の二十四節気は古代中国で成立したため、地域や時代などの違いから日本の季節感と合致しないところがあり、現代の日本にはなじみの薄い節気の呼称があります。例えば「小満」や「芒種」は、多くの日本人にとって日常生活で使う言葉ではなくなっています。
日本気象協会では、2010年度第3回理事会において、来年度からこの二十四節気を天文学・気象学のみならず、言語学や日本文化を含めた多面的な見地から見直し、親しみを感じる季節の言葉に置き換えた「日本版二十四節気~新しい季節のことば~」を提案することとしました。

2012年秋を目途に日本版二十四節気を提案するそうです。