動物園の塀にトンボがとまっていました。[写真1]
オニヤンマを小さくしたような,黒い体に黄色い縞模様のトンボです。
じっと動かず逃げようとしないので,指でつまんで簡単に捕まえることができました。

ヤンマのなかまのようですが,図鑑で調べるとサナエトンボ科のヤマサナエでした。
ヤマサナエは里山周辺でみられる春の代表的なサナエトンボです。
幼虫で越冬,春先に羽化します。

トンボといえば夏や秋のイメージがありますが,意外に春にも多くのトンボが羽化します。
サナエトンボの名前も,「サナエ」は「早苗」で,春に羽化するものが多いことからきています。
といっても,実際に春にトンボが飛んでいるのを見かけるのは多くはないですよね。

東海大学出版会『日本産トンボ幼虫・成虫検索図説』(1988年)には,トンボの季節型について次のように書いてありました。

トンボは種類やグループによって出現期がほぼ一定している。おおまかに分けると春先から出現して夏の盛りがくるまでに姿をけす春季型と,夏を中心とした季節に現われて秋までみられる夏季型あるいは夏秋型を考えることができる。

春季羽化組のトップグループはオオカワトンボ,タベサナエ,オグマサナエ,シオヤトンボなどで,三重県北部では例年4月初旬頃から羽化がはじまる。続いてヤマサナエ,ホンサナエ,シオカラトンボなどが出現し,中旬にはトラフトンボやハラビロトンボ,下旬にはムカシトンボ,ギンヤンマが姿を現わしゴールデンウイークのおわる頃までには春季型のトンボはひととおりでそろう。

文一総合出版『ネイチャーガイド 日本のトンボ』(2012年)によると,ヤマサナエの雄は全長62~72mm,腹長45~52mm,後翅長35~45mm,雌は全長64~73mm,腹長44~54mm,後翅長37~46mm。
この個体(♂)は全長68mm,腹長48mm,後翅長40mmでした。

ヤマサナエの形態的特徴については,東海大学出版会『日本産トンボ幼虫・成虫検索図説』(1988年)[左図]と,文一総合出版『ネイチャーガイド 日本のトンボ』(2012年)[右図]に次の図が載っていました。

図の特徴は,[写真2]~[写真5]によく合致しています。
虫にしろ植物にしろ,実物と図鑑が微妙に異なり同定に迷うことが多いのですが,今回はすっきりと一致しました。