疏水わきの道に,小さな白い花がたくさん落ちていました。[写真1]
花のかたちのままに,ぽとりと落ちています。
上を見上げると,他の木々と競うように伸びた細い幹の上の方に,白い花が咲いていました。[写真2]

どこかで見た花のような気がするのですが思い出せず,図鑑をめくっているとありました。
エゴノキの花です。
エゴノキは公園樹や街路樹としても植えられ,街中でも目にすることがある木です。
コーヒー豆のような種ができます。(→2003年10月11日

[写真4][写真5]は,植栽の花を写したもの。
やはり今の時分はもう大部分の花が落ちて,残った雌しべだけが突き出ています。

エゴノキの花は咲いている様子よりも,散る風情の方が印象的なようで,おおくの句に詠まれています。

子に跔(かが)む妻をみてをりえご散れり(千代田葛彦)
そよぎてはそよやみてはえごこぼれ(亀井糸游)
えごの花鹿に池みちありにけり(岡井省二)

平凡社『日本の野生植物 木本Ⅱ』(1999年)には,エゴノキについて次のように書いてありました。

山麓や山の谷間に多い落葉性の小高木,高さ7~8m。若枝は緑色で星状毛があるが,のちに無毛となり,枝は暗褐紫色,幹の樹皮は淡黒色で比較的平滑。

花は5~6月に開き,長さ2~3cmの小花柄があって下向きに咲く。萼は倒円錐形で長さ4~5mm,縁には低い5歯がある。花冠は白色,径約2.5cm, 5深裂し,裂片の背面には星状毛がある。雄蕊は10本で,花冠筒部に着生する。花柱は直立し,雄蕊よりすこし長い。花が水面に落ちると, 5裂した花冠の中央に雄蕊が直立して水に浮かぶ。

「花が水面に落ちると, 5裂した花冠の中央に雄蕊が直立して水に浮かぶ。」とあります。
街中で見かけるエゴノキの花は水面に浮かんでいることはないので,どうしてわざわざこんなことが書いてあるのか不思議でした。

どうやらサクラの花筏と同じように,えごの花が川に浮かぶ様子は定番の情景のようです。
水面に浮かぶえごの花を詠んだ句が数多くありました。
もともとが谷間に多い木なので,落ちた花が谷川を流れるのではないかと想像します。

えごの花遠くへ流れ来てをりぬ(山口青邨)
えご散りて渚のごとく寄らしむる(皆吉爽雨)
えごの花散り敷く水に漕ぎ入りぬ(大橋越央子)