シイの木のくぼみに,鮮やかな赤紅色をしたカンゾウタケが,上下に2個並んでいました。[写真1]
傘の下面は白っぽくて,若い新鮮な個体であることを示しています。[写真2]
古くなると,下面は暗赤色になります。

[写真3]は半分に切った断面。
赤白の筋模様が獣肉を思わせます。
切り口からは肉汁を思わせる赤い汁が出ることが多いのですが,この時はほとんど出ませんでした。

[写真4]は,傘表面。
[写真5]は,傘下面。
[写真6]は,傘断面。

保育社『原色日本新菌類図鑑(Ⅱ)』(1989年)には,カンゾウタケについて次のように書いてありました。

傘は扇形~へら形または舌状,つけ根は狭まり短柄状または無柄,幅2.0cm,厚さ5cm余に達する。表面は濃い赤紅~暗赤褐色,微細なつぶ状,肉は血紅色で獣肉に似た赤白色の筋模様を表し,血液状の赤い汁を含んで柔軟,酸味をおびる。傘の下面は黄白~淡紅色,古くなると暗赤色。子実層托を構成する細い管は長さ5~10mm,太さは4~5本で1mm,黄白色だが擦ったり古くなると赤褐色になる。

梅雨期または秋,ブナ科の樹木とくにシイの樹幹の地際部に発生する。比較的ふつう。心材の褐色腐朽をおこすといわれる。食用。分布:日本全土・広く世界的。
欧米では肝臓茸とか牛の舌茸などの名でよび,古くから食用にしたが,日本人はこの菌に馴染まず,雀巣菌譜(1858)に舌茸一名キツネノシタ,毒菌也としているのが唯一の記録のようである。欧米では生のままサラダにし,またパターでいため植物性ビフテキvegetable beefsteakなどと称して食べる。今では日本でも食用にする人が少なくない。

・梅雨期または秋,ブナ科の樹木とくにシイの樹幹の地際部に発生する
今年も5月に,近くにあるシイの切り株に発生していました。(→2013/6/1
過去の発生状況をみると,秋よりは5月に発生することの方が多いようです。

シイの樹幹の地際部に発生する」とはまさにその通りで,今まで見たカンゾウタケは全て,シイの木の地際の低い部分に発生していました。

・日本人はこの菌に馴染まず
日本のもともとの植生は照葉樹林なので,シイの木はいたるところにあり,昔から膨大な量のカンゾウタケが発生していたはずです。
それなのにカンゾウタケを食べる食習慣はなかった。
なぜでしょう。
思うに,カンゾウタケの酸味は和食の味付けに合わなかったからではないでしょうか。
味噌をつかったキノコ汁や醤油をつかった煮物には合いません。
酸味を生かすとしても,三杯酢には合いそうにありません。

カンゾウタケはバルサミコ酢やバターといった西洋食材によってこそおいしさが発揮されるようです。
今では日本でも食用にする人が少なくない」のは,食事が西洋化した影響ではないでしょうか。

ふと思い立って「カンゾウタケ 栽培」とネット検索したところ,たくさんのページが表示されました。
人工栽培にむけていろいろな所で技術開発がなされているようですね。
はたしてスーパーの店頭にカンゾウタケが並ぶ日は来るのか。
興味深いです。