クチナシの実の横側に,破けたような大きな穴が開いていました。
気づくと,この実だけではなく,他の実にもみんな穴があいてます。[写真1]~[写真3]
中はみごとに空っぽです。[写真4]
本来ならば,コチジャンのようなねっとりとした赤い果肉が詰まっているはずです。[写真5][写真6]
クチナシの実と種子について→2012/1/8
別の場所のクチナシも何箇所か見て回りましたが,全ての実に穴があいていました。
多分,ヒヨドリかメジロか,小鳥がつついて中身を食べたのだと思います。
せっかくできた実を鳥に食べられて残念なようですが,でも,これこそがクチナシの目的のはずです。
鳥においしい果肉を与える代わりに,種子散布させる戦略です。
動物や鳥に果実を食べさせ,そのなかに含まれる種子を糞とともに排泄させることによって,種子を散布する方法を「被食散布」といいます。
小林正明著『花からたねへ-種子散布を科学する-』(2007年)には「被食散布」について,次のように書いてありました。
動物にいったん食べられ,種子の不消化排出を期待して散布する方法である。もちろん動物はタダでは運んでくれないから,果実などを報酬として与える。ほ乳類の全部と鳥がこのはたらきをしてくれる。ニホンザルは頬袋に木の実をほおばり,移動しながら少しずつ種を出して食べる。これも種子散布をしていることになる。
果実は動物に食べられ果肉は消化されるが,種子は普通消化されない。このようにして散布される種子の種類は多い。
この方法を周食散布または果肉報酬といい,ほ乳類や鳥に依存することが多い。これらの動物は恒温性なので,体温を保つためにエネルギーを多く必要とする。そのために多食するので散布してもらいやすい。また鳥は歯がなくて餌を飲み込むので種子が傷つかない。また空を飛ぶために身を軽くする必要があり,数分から数十分で排出するという特性がある。早く排出すると親植物からの移動距離が極端に遠くならず,似ている環境に散布される可能性が高い。鳥の排出の多くは数十m,どんなに遠くても1kmを越すことはないといわれている。
この散布方法をもつ植物は果肉はもちろんだが,鳥が食べやすい果実の大きさと種子が消化されない固い殻(核;胚を保護する堅い種皮や内果皮など)を用意している。そして果実の色を鳥の食欲をそそる赤,青黒色,黒褐色にしている。これは多くの分類群で同じ方向に進化した(収れんした)といわれている。図Ⅱ-109-112にさまざまな色の果実を紹介する。
赤は鳥にいちばん目立つ色であることが知られている(果実の色は日本の温帯で約50%が赤,次いで黒が40%弱となっている。特に低木層や草本層の種類には赤が多い。それに対して亜熱帯や熱帯林では黒色の実のほうが多い。これは温帯では鳥への依存度が高いのに,熱帯ではほ乳類への依存度が高いからだといわれている。ほ乳類に依存するものに黒系が多いのは,ほ乳類が色よりもにおいや味,さらに学習の効果が大きいためと思われる。
クチナシの実は鳥に食べられることを前提にできている考えると,なるほどよくできています。
・鳥の食欲をそそる赤い実をしている。
果肉も鮮やかな赤い色をしています。
・果肉と一緒に飲み込めるように,小さな種子がたくさん入っている。
多分,消化されにくいように,種皮は固いのだと思います。
・果実の中は仕切りがなく,一室となっている。
果皮(?)の内側は滑らかで,つるりと果肉が分離します。
・実は,食べてくださいというように,枝の上に突き出ている。
実の上に残る,大きな宿存がくも何らかの役割をしているのだと思います。