2023年11月14日

道にトゲナナフシが落ちていました。
持ち帰り,翌日見ると,前胸部と頭部の間から粘液のようなものが出ています。ナナフシの仲間には防御物質を分泌するものがあるそうですが,これがそうなのかどうかは分かりません。

トゲナナフシ
トゲナナフシ[ in夷谷町 on2023/11/4 ]
トゲナナフシ(首筋の粘液)
トゲナナフシ(首筋の粘液)

翌日には固まって,体の凸凹と見分けがつかなくなっていました。

トゲナナフシ(首筋の粘液)
トゲナナフシ(首筋の粘液)

容器に入れたままにしていると,3日目に死んでいました。糞をたくさんしていたことからも,大量の餌を摂取しつづける必要があるようです。

捕まえたときから左後脚が変な方向に向いていたのですが,翌日には外れていました。
ナナフシ類は危機が迫ると,触覚や脚を自割します。転節と腿節との境界からポロリと外れ,また再生します。
しかし,通常の脚の跗節は5節ですが,再生した脚の跗節は4節しかありません。

トゲナナフシ(切れた脚)
トゲナナフシ(切れた脚)
トゲナナフシ(切れた脚)
トゲナナフシ(切れた脚)

外れた,左後脚の跗節。5節あります。

トゲナナフシ(後脚?節)
トゲナナフシ(後脚?節)

名前のとおり,体中に棘があります。棘のある植物に擬態しているようです。

トゲナナフシ(背中の棘)
トゲナナフシ(背中の棘)

前胸背板前縁に1対の長い突起があります。(ないものもいます)

トゲナナフシ(前胸背板前縁の突起)
トゲナナフシ(前胸背板前縁の突起)

東京農工大学のサイトに面白い記事が載っていました。ナナフシは鳥に食べられることによって子孫を拡散させているというのです。まるで植物の被食散布と同じことが,昆虫でも起きているとは。

硬い卵をもつナナフシの卵を,ヒヨドリに食べさせて,卵が無傷で排泄されるかどうかを検討しました.その結果,トゲナナフシ,ナナフシモドキ,トビナナフシのいずれについても,5~20%の卵が無傷で排泄されることがわかりました.さらに,このうちナナフシモドキでは,鳥の糞から回収した卵から実際にふ化が起こることも確認できました.

「ナナフシの卵は無傷のまま鳥の消化管を通過できる」という知見と,「ナナフシの成虫は,頻繫にヒヨドリに食べられている」ことや「ナナフシのメス成虫のお腹の中には,すでに硬くなった卵が沢山入っている」ことをあわせて考えると,「ナナフシが鳥に食べられた場合,植物の種子と同じように,ナナフシ体内の卵が消化されずに排泄され,それがふ化して分布拡大に寄与する」というのは,十分にありえるストーリーです .

積極的に鳥に捕食されている訳ではなくとも,ナナフシのように移動能力が極めて低い昆虫では,鳥による捕食が移動分散や分布拡大を促進する要因となりえるでしょう.

興味深いですね。似たような事例は他の生物でも起きているのかもしれません。


2015年12月8日

家の塀にトゲナナフシがとまっていました。
前脚と触角を伸ばして枝になりきろうとしています。[写真1]
樹上では見事な擬態をみせるトゲナナフシですが,塀の上では無理ですね。

この時季には,路上でつぶされたナナフシもよく見ます。
気温が下がる秋には,日当たりのよい道に出てくるそうなので,それが原因かもしれません。

過去の記事で,ナナフシについて書いているのは次の7件です。
2015年2月21日
2007年9月9日
2006年11月5日
2005年11月23日
2005年8月16日
2003年11月21日
2003年7月14日

2003年7月14日以外の6件は,いずれもトゲナナフシでした。
自宅周辺にトゲナナフシが多いのか,それとも単に他のナナフシ類に比べて目に付きやすいだけなのでしょうか。
他のナナフシ類が木の上にいるのに対して,トゲナナフシは山道の草の上などにいるので,目に触れやすいのは確かなようです。
北隆館『新訂 原色昆虫大図鑑 第3巻』(2008年)には,次のように書いてありました。

成虫は中秋から晩秋にかけて採集されるが,雑多な植物の葉を食する。木の高い部分には発見されず,むしろ,山道の両側の草の生えた土面などで見出される。

この個体は,左右の前脚の長さが違います。
右前脚が,左前脚の2/3ほどの長さしかありません。
自割して再生したもののようです。
ナナフシ類は危険が迫ると触角や脚を自割し,幼虫の段階であれば,次の脱皮の際に再生されます。
上書には,次のように書いてありました。

各脚の転節と腿節との境界から,脚は自割して離れる。すなわち,外部からの刺激で脚をポロリと落して捨ててしまうのである。その場合,脱皮をすればその切断面から小さな脚が再生し,再生脚は,脱皮を重ねる毎に太さと長さを増加する。従って幼時に再生を開始したものほど再生脚は通常の脚の長さに近くなる。しかし,どのような場合においても,再生脚の付節数は4節より増加しない。

左前脚の付節は5節あるのに対して,右前脚の付節は4節しかありませんでした。[写真4]


2015年2月21日

トゲナナフシ(♀)です。
昨秋,町内の道を歩いていたのを捕まえました。
死んでいるのかなと思うぐらいじっと動かなかったのですが,いつの間にか本当に死んでいました。
腹部が黒く変色しています。

北隆館『新訂 原色昆虫大図鑑 第3巻』(2008年)にはトゲナナフシについて,次のように書いてありました。

 体長♀ 61~72mm。光沢のない汚褐色で,背面には瘤状小隆起を散布する。前胸背板前縁に1対の長い突起があり,他にも数対の小さな突起をもつ。中胸背面はその正中線に沿って前・中・後部にそれぞれ1対の棘を有し,中央部の両側の近くにはさらに1対の棘を具える。後胸背の中央にも左右近接する1対の棘がある。各腹背板の後縁近くには1対の小さな棘と,その直後の後縁の中央に扁平な突起をもつ。それらの棘は尾端節に向かうに従い,扁平突起は基節に向かうに従って退化の傾向にある。

成虫は中秋から晩秋にかけて採集されるが,雑多な植物の葉を食する。木の高い部分には発見されず,むしろ,山道の両側の草の生えた土面などで見出される。

前胸背板前縁に1対の長い突起があり」とありますが,この個体には突起物らしきものはありません。[写真7]
以前に捕まえたトゲナナフシの写真で確認すると,確かに1対の棘があります。[写真8]
ネット上のトゲナナフシの画像を見ても,前胸背板前縁の棘はあるものとないものがあるようです。

木の高い部分には発見されず,むしろ,山道の両側の草の生えた土面などで見出される」。
この付近でトゲナナフシを見つけるのも,ほとんど道の上や道脇の草の上です。

ナナフシは,種類によって単為生殖することが知られています。
トゲナナフシも日本で見られるものはほとんどがメスで,オスが発見された例は1~2匹しかないそうです。

平凡社『日本動物大百科 昆虫Ⅰ』(1996年)には,ナナフシの生殖について,次のように書いてありました。

なお,これまでオスがまったく見つかっていない種として,ヤスマツトビナナフシ,シラキトビナナフシ,タイワントビナナフシ,ヤエヤマツダナナフシなどがある。またナナフシモドキ,トゲナナフシなどはほんの1~2匹しかオスが見つかっていない。これらは単為生殖しているものと思われるが,実際に飼育実験でもそれが確認されている。
 しかし雌雄ともに見られる種類,たとえばアマミナナフシやコブナナフシなどでも,そのふ化率はごく小さいとはいえ,単為生殖が可能であることが確認されている。

ところが,数年前にトゲナナフシの野生のオスが発見されたそうです。
それも京都で。
朝日新聞のデータベースに載っていた記事は,次のとおりです。(2009年9月28日朝日新聞。京都新聞でも捜しましたが,この件は記事になっていないようです。)

 野外ではメスしか見つかっていなかった草食性の昆虫,トゲナナフシのオスを,京都府京田辺市の介護施設職員西川政文さん(38)が同府南部の林道脇で見つけた。ナナフシの世界では非常に珍しい「草食系男」の発見に,専門家も驚いている。
小枝や枯れ草に姿を似せて身を隠すことで知られるナナフシは国内に約20種いる。トゲナナフシは体中にトゲがあるのが特徴で,西日本を中心に分布する。ナナフシの仲間にはメスだけで卵を産む種やオスがほとんど見つからない種が多い。その理由は分かっていない。トゲナナフシも飼育下では1977年にオスが確認され,専門誌に報告されたが,野外では見つかっていなかった。
 虫好きの西川さんは8月14日,林道脇で見つけた。これまで採集したトゲナナフシのメスは体長6~7センチ。今回は4.5センチと小さく,「オスでは」と直感したという。
 「ナナフシのすべて」などの著作がある名古屋市の昆虫研究家岡田正哉さん(66)に鑑定してもらい,交尾の際にメスを固定する器官があることなどからオスと確認された。岡田さんは「やっぱりオスがいたか,とワクワクした。オスはどうやって増えるのか,このオスと交尾したメスの卵からまたオスが生まれるのか,とても興味深い」と話している。

ほんとに「とても興味深い」です。
これからは,トゲナナフシを見つけたら,オスでないか確かめなければなりませんね。


2007年9月9日

  • トゲナナフシ
    [写真1]
  • トゲナナフシ
    [写真2]
  • トゲナナフシ
    [写真3]

子どもがつかまえてきたトゲナナフシです。

小学館の図鑑「ネオ」にはトゲナナフシは載っていなくて,私は単純にひげの短いものがナナフシ,長いのがエダナナフシと思い込んでいました。

「学研生物図鑑 昆虫Ⅲ」には,ナナフシについて次のように書いてありました。
『からだは緑色で触角は長くない。雌は頭部に1対のとげがある。ナラの木の林に多く,その葉を食べて生活する。
——-
本種に似て触角が長く腹部に達し,雌の頭部にとげのないのはエダナナフシ』

ナナフシの雌にはトゲがあると書いてありますが,それも「頭部に1対のとげ」でしかなく,体中にたくさんトゲをもつのはどうやらトゲナナフシのようです。

「学研生物図鑑 昆虫Ⅲ」には,トゲナナフシについて次のように書いてあります。
『光沢のない黒褐色で背面には小さな棘が散布する。前胸の前部には1対の長い棘がある。秋に成虫があらわれ,雑多な植物につくが高い木には登らない。体長:60mm内外。分布:本州・九州。本種に似て中胸の前部に2本の長い棘のあるのは,トゲナナフシモドキ N.ligens Brunner von Wattenwyl であるが少ない。』

トゲナナフシがネオに載っていなかったのは,分布が関西以西であるためかもしれません。
関西では普通種です。

ただ気になるのは,体の色は「光沢のない黒褐色」となっていますが,この個体は緑色を帯びていることです。
また「前胸の前部には1対の長い棘がある」となっていますが,これもよく確認できません。
実物は既に放してしまっているので写真で捜すしかないのですが,それらしきものが見当たりません。

ナナフシ類の卵は植物の種子によく似ていて,種類ごとに色や形が異なり,種を判定するのによい手がかりになるそうです。

保育社「原色日本昆虫図鑑(下)」には,ナナフシ目について次のように書いてありました。
『樹上性で植物の葉を食べ,ときには樹を丸坊主にする。夜行性で,卵は1個ずつバラバラに産み落とす。1♀は100~1,300卵をうむ。卵は樽型で表面の複雑な彫刻や斑紋で植物の種子に酷似し,分類上よい決め手となる。不完全変態。♂がみられず,♀だけで単為生殖する種が多い。アンテナや脚が失われても再生能力がある。』


2005年8月16日

エダナナフシ?
エダナナフシ?触覚が長いのでエダナナフシと単純に思っていたのですが,図鑑のエダナナフシには体にトゲトゲがありません。調べてみると,雄と雌では少し形が違うようです。雄は緑色で雌は緑色~茶褐色。雌の頭部には1対の角状の突起。雄の体は細く,雌は太くて大きい。これはエダナナフシの雌でしょうか。
(2015年2月21日追記:これはトゲナナフシです。)


2018年10月13日

塀にトゲナナフシがとまっていた。


2017年9月24日

・自宅の壁にトゲナナフシ。


2018年5月29日

・路上でつぶされたトゲナナフシ。


2016年11月8日

・トゲナナフシが道を横切っていた。頭部を負傷しているようだ。〔九条山〕[写真19]


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    [写真19]11/8 トゲナナフシ

2005年11月23日

ナナフシ
この頃,道の上にいるナナフシをよく見かけます。木の上から落ちてきたのか,踏まれてつぶれているものもかなりいます。 顔をアップにすると,かなり奇怪な容貌です。何かに似ていると思ったら,口がプレデターに似ています。(これはトゲナナフシ)


2003年11月21日

 エダナナフシ
エダナナフシ。この頃,道でつぶされているナナフシをよく見ます。このナナフシも道でじっとしていました。寒くなって動きが鈍くなっているのでしょうか。
(2015年2月21日追記:これはトゲナナフシです。)